冬の土手通りで聞いた鳴き声
ある日の冬。
夕方、土手通りを歩いていたところ、とあるマンションの入口で、微かに「ニャー、ニャー」という声が聞こえます。
声のする一階の植え込みに近づくと、声が止まりました。
植え込みは暗く、静まり返っています。
気のせいかと思い、そのまま通り過ぎました。
そして翌日の日中、再び、土手通りを歩くと、昨日通ったマンションの前で、微かに「ニャー、ニャー」という声が聞こえます。
声がする入口の植え込みに近づき、猫を呼ぶ時の「チョッ、チョッ、チョッ」と声をかけながら、手招きをしました。
すると、植え込みの中から、やせ細った猫が現れたのです。
毛並みがとても綺麗な、若いサビ猫でした。
目がパッチリと大きく、とても可愛いのです。
とても人懐っこく、こちらにすり寄ってきます。
「その猫ね、だいぶ前からそこにいるの」
という女性の声が、上から聞こえました。
見上げると、ベランダに、マンションの住人である女性とお子さんがいて、こちらの様子を見ていたのです。
さらに女性が
「その猫、そこに捨てられたの。可哀想だけど、このマンション、ペット禁止で飼うことができないのよ」
と言われました。
サビ猫は体を丸くして腕の中に入り、じっとしています。
とても大人しく、決して爪を立てません。
ただ、お腹はペッタンコで、ご飯をずっと食べていないようです。
マンションにいる方から
「その猫、飼ってあげて」
とも言われました。

抱きかかえた小さな命
このサビ猫を、また植え込みに戻すという気持ちにはなれません。
そして、サビ猫を両腕で抱きかかえたまま、そのマンションの前を離れました。
マンションにいる女性の方々から
「そのまま飼って貰いなさい」
「良かった、良かった」
という安堵の声が聞こえてきます。
こうして、サビ猫を抱きかかえて、家へと戻ったのです。
帰宅をすると、サビ猫の引き取りに対して、家族から大反対をされました。
もとのところへ返してくるように言われます。
でも、とても大人しい良い子なのです。
この地域には、猫がいる家があるのです。
サビ猫を抱きかかえ、再び家を出ます。
そして、猫がいる一軒の家を訪ねました。
しかし、もうこれ以上、猫の受け入れはできないことを伝えらたのです。
日はさらに落ちていきました。

同級生の家へたどり着く
学校の同級生で、家に猫がいる家があることを思い出しました。
その家の前を通ると、窓ガラスごしに、ハチワレ猫ともう1人の子が、歩道の様子を眺めている姿を見かけるのです。
サビ猫と一緒に、その同級生の家を訪ねました。
玄関のブザーを押すと、同級生の兄弟が出てきたので
「そちらに猫がいると思うんですけど、こちらの猫を引き取って頂けないかと思って」
とお伝えします。
すると
「少々お待ち下さい」
と言って、お父さんを呼びに行ってくれました。
入れ替わりに、同級生のお父さんが出てきたので、この猫を引き取って頂けないかを伺います。
お父さんは
「ちょっと待って。知り合いを聞いてくる」
と、そのまま外出されました。
しばらく待っていると、お父さんが戻ってきて
「聞きに行ったんだけど、今、外出してるって」
と言われて家の中に入られます。
そして
「この中で待ってなよ」
と、サビ猫と一緒に玄関の中へ入れて頂きました。
家の中には、ハチワレ猫ともうひとりの猫がいて、その奥には体に布団をかけられた猫が横になっています。
布団に横たわる猫は、高齢のようで、目を閉じてずっと眠っていました。
ハチワレ猫ともうひとりの子は、離れたところから、こちらの様子を伺っています。
サビ猫も、ハチワレ猫たちを見て、驚いているようです。
お父さんが猫を入れる持ち運び可能なゲージを持ってきて
「その猫、この中に入れなよ」
と言われました。
サビ猫は大人しくゲージの中に入ります。
お父さんが
「大人しいね」
と言われたので
「本当にいい子なんですよ。絶対、爪をたてないし」
と伝えつつ、サビ猫を保護したこれまでの経緯を話しました。

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