ハチワレ猫のハッちゃんとの出会い
サビ猫サビちゃんの新しい家族が決まり、さらに月日が過ぎたある夏の日のこと。
隣家の境い目に、白と黒の模様を持つハチワレ猫が現れるようになりました。
家の外壁と、家を囲むフェンスとの間には、スペースがあり、そこでいつも体を横たわらせています。
そのスペースは、幅が狭いので人間が入ることは不可能。
猫が外敵から身を守るのには、安全な場所でした。
ちなみに、サビ猫サビちゃんのところにいるハチワレ猫の「リーダー」ではありません。
外壁とフェンスの間にいるハチワレ猫のハッちゃんは、子猫ではないのですが、かといって大人の猫ほどの体格もしていません。
猫に詳しい方に聞くと
「おそらく一才くらいだろう」
とのこと。
ハッちゃんは、野生猫でいる期間が、きっと長いのでしょう。
とても警戒心が強いのです。
決して、安全なフェンスと外壁の間から出ようとしません。
ハッちゃんの毛並みは本当に美しいのですが、全体的にやせ細ったように見えます。
ハッちゃんに近くと、フェンスごしに「キッ!」と、こちらを睨むのです。
野生で生きている猫は、強い警戒心がないと生き残れないのかもしれません。

チュールとカリカリで育む、少しずつの信頼
毎日その場所にいる訳ではないのですが、安全な場所のため、気がつくと
「あ、ハッちゃん、今日来てる」
と、常連になっていました。
「お腹が空いてないのかな? 水はどうしてるのかな?」
ただ、ハッちゃんはフェンスの中からは出ようとしません。
山谷にあるマーケットやコンビニには、猫のご飯がたくさん販売されています。
「ハッちゃん、チュールは食べるだろうか?」
マーケットで猫のチュールとキャットフードを買います。
そして、ハッちゃんがフェンス裏に横たわっている時、こちらが近づき過ぎないよう気をつけながら、腕を伸ばし、フェンスのすき間から、チュールをそぉーと差し出したのです。
すると、警戒しつつも、小さな鼻をフンフンとさせながら、ハッちゃんがチュールへと近づいてきました。
そして、チュールを食べ始めたのです。
チュールを食べ終わると、再び、こちらと距離をおいて横たわり、こちらをキッと睨んでいます。
チュールだけでは、お腹が空きますね。
そこで今度は、猫のカリカリ(=猫のドライフード)をあげることにしたのです。
猫のご飯は、1食ごとに小袋に入っているものなど、山谷には本当にいろいろありました。
後日、ハッちゃんがフェンスと外壁の間に横たわっている時、フェンスの土台となっているブロック塀の上に、カリカリを置きました。
しかし、こちらをキッと睨み頑として起きあがろうとはしません。
警戒心を解いて貰うため、その場を離れ、家の中に入りました。
すると、
「カリカリ、カリカリ」
という微かな音が聞こえます。
どうやら、ハッちゃんが、カリカリを食べてくれているよう。
音が止んだので、様子を見に行くと、ブロック塀の上に置いたカリカリはなくなっています。
そして、もとの位置で横たわり、キッとこちらを睨んでいるハッちゃん。
猫は空腹の時、じっと動かず、体力を温存することを、猫の記事で読んだことを思い出しました。

外の世界へ踏み出した、ハッちゃんの小さな変化
ハッちゃんは、毛並みは綺麗ですが、体全体はなんか骨っぽいのです。
しっかりご飯を食べているのか、疑問です。
このまま、フェンスを支えるブロック塀の上に置くカリカリだけでは、ご飯の量は足りないでしょう。
ただ、野生で生きるハッちゃんの警戒心はかなり強いのです。
「そうだ。ハッちゃんがご飯を食べ終わるまでは、こちらの姿は出さないようにしよう!」
さっそく、紙皿と水を購入。
翌朝、ハッちゃんがフェンスと外壁のスペースで横たわっているのを確認。
家の前にある台の上に、紙皿を2枚置き、それぞれに、カリカリを一食分と、水を入れました。
こちらは家の中に入ります。
すると、ドアの向こう側から
「カリカリ、カリカリ」
という音が微かに聞こえてくるのです。
そして、音が止んだので、そっとドアを開けました。
ハッちゃんはフェンスと外壁とのスペースで、いつものように横たわっています。
でも、紙皿の上に置いたカリカリは、完食されていたのです。
ハッちゃんが、フェンスと外壁のスペースから出てきて、ご飯を食べてくれました。
それから毎朝、カリカリと水を用意ひ、家の前にある台の上に置きます。
そして、ハッちゃんがご飯を食べる
「カリカリ、カリカリ」
の音が聞こえる間は、ドアは開けないようにしました。
それから間もなく、ハッちゃんに変化が起きたのです。
ご飯を食べ終えると、フェンスと外壁の間に戻らず、サッと軽やかな身のこなしで、そのままどこかへと向かいます。
家の窓から、ハッちゃんが元気よく、向かいのブロック塀の上へ、ひらりと飛び上がり、軽やかに歩き去っていく姿を見ることができました。
ハッちゃんの体力が戻ってきたのでしょう。
それと同時に悲しいことも起きました。


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