Twitterでも山谷の暮らしを発信中です:
フォロー @sanya_tokyo
ハチワレ猫のハッちゃんと茶白猫のガウちゃん・後編 | 生まれも育ちも東京の山谷 -山谷は日本三大ドヤ街のひとつです-

ハチワレ猫のハッちゃんと茶白猫のガウちゃん・後編

ナワバリ争いとすれ違うふたり

ハッちゃんとガウちゃんのケンカは、きっとナワバリ争いだったのだと思います。
その時は、ガウちゃんが勝ったのでしょう。
ハッちゃんのナワバリを、ガウちゃんが取ったのか。
それとも、もともとガウちゃんのナワバリだったところに、ハッちゃんが後から入ってきたのか。
そして、ケンカに負けたハッちゃんは、どこへ行ったのでしょうか。

それから間もなくのある日の夜。
こちらが家に入ろうとすると、後ろから
「ガーウ、ガーウ」
という声がします。
そこにいたのは、ガウちゃん!

ガウちゃんは、ハッちゃんよりも体が大きいのですが、ボサボサの毛並みをしており、若い猫ではないようです。

こちらを見て
「ガーウ、ガーウ」
と鳴いています。
お腹が空いているのでしょう。
紙皿にカリカリを入れ、ハッちゃんがご飯を食べていた台の上に置きました。

しかし、ガウちゃんは、ハッちゃん以上に、こちらとの距離を開け、近づこうとはしません。
ガウちゃんは、長く野生の生活を送ってきたことで、ハッちゃん以上に強い警戒心を持っているのだと思いました。
そのため、ガウちゃんが安心してカリカリが食べられるように、こちらは家の中に入って、ドアを閉めます。

すると、ドアの向こうから、カリカリを食べる音が聞こえてきました。
ガウちゃん、カリカリを食べているようです。
カリカリの音が聞こえなくなったので、ドアをゆっくり開けると、ガウちゃんの姿はなく、紙皿も空になっていました。

塀の前でこちらを真っすぐに見つめるハチワレ猫のハッちゃん。くっきりした顔立ちとまなざしが印象的。
塀の前でじっと見つめるハッちゃん。凛とした表情に、気持ちが引き締まります。

再び現れた夜のハッちゃん

それから、また数日経ったある夜のこと。
家に入ろうとした時、足元を勢いよく走り抜けるものがありました。
そして、室外機の後ろから
「ニャーン」
という可愛らしく小さな声。
ハッちゃんです!

明るい日中にしか姿を見せなかったハッちゃん。
逆に、日が落ちた夜にのみ現れるガウちゃん。

ハッちゃんが夜に姿を見せたのは初めてのことでした。
この日の夜は
「ガーウ、ガーウ」
という声が聞こえません。
ガウちゃんが不在なので、ご飯を食べにきたのでしょう。

紙皿にカリカリを入れ、いつものように、台の上に置きます。
こちらが家の中に入るまで、ハッちゃんはカリカリを食べようとしません。
ハッちゃんを安心させるため、家の中で完食するのを待ちます。
カリカリの音が聞こえなくなって、ドアを開けると、その姿は消えていました。

ハッちゃんが夜に現れたのは、この時が最初で最後です。

ハッちゃんのそれからは、気が向いたら、朝、カリカリを食べにくるという感じになりました。
きっと、他の家でもご飯を貰っているのでしょう。
ガウちゃんは、日中は姿も見えず、あの「ガーウ」というハスキーな割れた声も聞こえないので、どこか安全なところにいるのだと思います。

こんな日が、これからも続くと思っていました。

ある休日の朝。
ハッちゃんが、久しぶりに現れて、ご飯を待っていたのです。

「よし、カリカリを!」
と思っていたところ、在庫が切れていることに気づきました。
そのため、ハッちゃんに
「今、急いで買ってくるから、もうちょっと待っていてね」
と伝えます。
ハッちゃんは、こちらと距離を置きつつ、じっと様子を見ています。

一番近いマーケットで、猫のご飯を買いました。

「ハッちゃん、いなくなっちゃったかな」
と思いつつ帰宅をすると、ハッちゃんは室外機の上で、毛づくろいをしながら待っていたのです。

驚かせないように、ドアを開けて、紙皿にカリカリと水を用意し、再び家の前にある台の上に置きました。
少し離れたところから眺めていると、ハッちゃんがカリカリを食べ始めます。

地面に座りながら、こちらを静かに見上げるハチワレ猫のハッちゃん。控えめで穏やかな表情が印象的。
久しぶりに姿を見せたハッちゃん。ご飯、待ってたよ。

最後に見た日、最後に聞こえた声

そして再び、ある休日の昼頃。
家を出ると、ハッちゃんが洗濯機の上に、体を丸めて座っていたのです。
こちらを、じっと見ています。

「もしかして、撫でても大丈夫かな」
と、近づいたところ、ハッちゃんはサッと行ってしまいました。

そして、ハッちゃんを見たのは、この日が最後だったのです。

その数日後、風の強い深夜がありました。

遠くから、ハスキーの割れた
「ガーウ、ガーウ」
という声が聞こえます。
そして、激しくなる強風の中で
「ガーウ、ガーウ」
という声もかき消され、もう聞くことがなくなりました。

ハッちゃーん! ガウちゃーん!
どこにいるんだーい!
元気なんかーい!
ご飯ちゃんと食べてるんかーい!
おーい・・・

階段の下で、まんまるな目で見上げてくるハチワレ猫のハッちゃん。優しいまなざしが胸に残る。
この日が、ハッちゃんを見た最後の日になりました。

ご感想・思い出などお寄せ下さい

タイトルとURLをコピーしました