むかしむかし、山谷にて
むかーし、昔、そのまた昔。
山谷に、ある夫婦が住んでおった。
そして東北にも、ある夫婦が住んでおった。
山谷に住んでいる夫婦は、お父さんはガリガリにやせ細っての。
お母さんは関取のように豊満なお姿をしておった。
2人の間には、たくさんの子どももおったんじゃ。
東北にもいるやせ細った夫と豊満な妻
ほかにも似たような夫婦がおっての。
東北にある家じゃった。
そこには、病弱なご子息がおって、体もほっそりとして痩せておった。
あまりに体が弱いもんで、会社勤めは難しくての。
大切な跡取りじゃからと、親御さんはご子息を店長にした飲食店を立ち上げてやったんじゃ。
じゃが、体の弱いご子息1人で店を任せるのは心配なもんで、親御さんは若者を従業員として1人雇った。
この若者は、ご子息が大人しいことを良いことに、自分が店長のごとく振る舞いはじめた。
立場が逆になったことで、ご子息の親御さんも、これは困ったことじゃと、その従業員には暇を取らせたんじゃと。
じゃが、ご子息ひとりで飲食店をやるのは難しい。
そこで、ご子息に嫁を迎えることにしたんじゃ。
お相手も間もなく決まっての。
看護師をしている女性じゃった。
周囲からは
「あんな太っている人、どっから見つけてきたんだろう」
と、その嫁を見た人は、驚いて目を丸くしておった。
嫁さんは看護師を辞めての、髪の毛を後ろでクルッと丸めて、ご子息の店で仕事をするようになったんじゃ。
ある日、お母さんがいなくなった
東北にいるやせ細った夫と豊満な妻の夫婦2人は、お金を使いきれないほど持っている金持ちの家での。
飲食店をはじめる時に必要なものは、全てご子息の実家が出してくれた。
お金には何も困らない暮らしをしておった。
けれども、山谷にいるやせ細った夫と豊満な妻の夫婦2人の家は、暮らし向きが厳しくての。
ある日、突然、お母さんが家を出て行ってしまったのじゃ。
小さな子どもを抱え、お父さんは必死になって、お母さんの行方を探したんじゃ。
「妻が見つからなくて~」
探せども探せども、お母さんは見つからん。
お父さんは、すっかりしょぼくれておった。
見つけた場所は・・・意外なところ
この話が町内に広まった頃、ご近所の人が言うたんじゃ。
「そのお母さん、見たよ」
どこで見たのかと尋ねると─―
「あそこにさ、銭湯あるじゃん? 2階が銭湯で、1階が食堂になってるとこ。
その食堂の奥で、焼きそばを焼いてるよ。
スッゲー太ってるから、すぐわかるよ」
むかーし昔、とぉーい昔。
いなくなった妻は家の近くで、香ばしい焼きそばを焼いておったという「灯台下暗し」みたいなことが山谷であったんじゃとさ。

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