お酉さんの夜は、懐かしいにおいと賑わい
昔の「酉の市(とりのいち)」で見かけた「テーブルうさぎ」という手のひらサイズのウサギをご存知でしょうか。
毎年11月には、鷲神社(おおとりじんしゃ)で「お酉さん(おとりさん)」という縁日があります。
吉原大門に差しかかると、もうあたりは明るい屋台の灯りと人の声でいっぱいです。
あんず飴、フライドポテト、わたあめ、たこ焼きなど、甘い香りや油の匂いが、夜の風に混ざり、歩くだけで胸が楽しいお酉さんです。
そして、神社へ近づくほど、屋台の並びは食べ物から「熊手(くまで)」へと変わっていきます。
豪華な飾りがついた熊手は芸術品で、見るだけでも圧倒されます。
大きな熊手が売れると「よぉーお!」という掛け声と共に、手拍子が夜空に響きます。
この活気もお酉さんならではの風景です。
鷲神社の初詣
はじめて初詣へ行ったのは、鷲神社だった記憶があります。
12月31日の深夜、家族で鷲神社へ歩いて向かいました。
神社の境内は、初詣をされる参拝者の方々でいっぱいです。
大きなお賽銭箱の前に立ち、元旦になるのを待ちます。
そして、新年となりました。
お賽銭箱にお賽銭を入れ、両手を合わせ、ご神殿にお祈りをします。
――と、ご神殿から離れたところで参拝をされている方が、遠くからお賽銭を投げてこられるのです。
お賽銭箱の前で参拝をしている方々の頭上に、硬貨がバラバラと勢いよく落ちてきます。
横からお賽銭を投げられる方もいるので、こめかみに、勢いよく硬貨がビシッとあたることもあります。
お賽銭箱の前にいる参拝者たちから
「痛い! 痛い! 痛い!」
という声が一斉に上がります。
しかし、遠くから参拝される方々のお賽銭は、次々と飛んでくるのです。
後ろから体を押されるので、参拝が終わったら、ひたすら横へと移動して、参拝の列から離れた記憶があります。
それも今となっては楽しかった思い出の一つです。
屋台で見かけた「テーブルうさぎ」
そして、ご近所のお孫様が、お祖父様に「テーブルうさぎ」を買って貰ったのです。
ある時、学校の同級生が、こう教えてくれました。
「ペットショップの人がね「大きくならないウサギなんていません」って言ってたよ」
その後、お孫様が買って貰った「テーブルうさぎ」は、ペットショップの方が言われたとおり、デッカく立派なウサギへと成長したのです。
もと「テーブルうさぎ」のウサギは、お祖父様がお世話をされていたのを記憶しています。
今でも、お酉さんの賑わいを見るたびに、立派に成長したあの「テーブルうさぎ」と、そのウサギを育てていたお祖父様の姿を懐かしく思い出します。

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